兄エドワードの自己チュー人生

f:id:tera_kotta:20190113142342j:plain

エドワード8世というと王冠を賭けた恋、愛のために王座を捨てたロマンチックな話というのが日本での長年の一般的な認識だと思います。

ですが『英国王のスピーチ』以来、だいぶん風向きが変わったかもしれません。
本家のイギリスではどうかというと、伝記を読む限りではウィンザー公についてはこれでもかとボロッッくそ。

実際、ウィンザー公のことを知れば知るほど、そりゃそうだよなーと思ってしまいますし。

何しろ、祖国と国民がいちばん苦しいときにパリやマドリードやNYで豪遊をしていたのですから。

 

 

家族内ではディヴィッドと呼ばれていた長男エドワードは、金髪碧眼でハンサムで会話が上手くファッションリーダーで…その他いろいろ。

とても魅力にあふれた人物だったようで、ほとんど恋してるような崇拝者までいました。

誰とでも気軽に接するので大衆にも非常に人気があり、将来は新しい時代の君主として期待もされてました。
けれども人気者であったがために、彼は大衆を喜ばせることが公務だと勘違いし、歴史や伝統に見向きもしないだけでなくイギリス国王というものも政治も理解しなかった、とラッセルズを嘆かせる原因になります。

 


プリンス・オブ・ウェールズ時代も公務より私生活が優先で昼はゴルフ、夜はクラブへ出かけ、ダンスパーティとカクテルと女性にふける華やかな毎日。

人妻好みのエドワードはつき合う相手は皆、既婚者です。
ナイトクラブには専用のテーブルがあり、毎週木曜日には華やかなプライベートパーティが開かれていたほどです。
伝統的なイギリスの社交界は古臭く垢抜けていないと馬鹿にし、取り巻きはアメリカの最新の流行を身にまといハイセンスで洗練された人たち。

家業を継ぐのを嫌い厳格な父親に反発するのはあるあるですが、一般人は家を出ることができても王室に生まれた長男は王位を継ぐ道しかないのは不幸でした。

とにかく王室という重荷と伝統から逃げたい一心であったように見え、大人になりきれない大人、今で言うアダルトチルドレンなのかなと思います。

 

 

即位した後も自堕落で無責任な行動はおさまることはありませんでした。

ウォリスに贈る宝石に大金を使う一方、使用人の給料を下げ解雇をし、やり方に異を唱えそうな職員は排除します。

政府から来る書類に目を通すことなく、機密書類であっても机の上に放り出してある始末。

英国国教会の首長という立場であるにもかかわらず礼拝にも行きません。

バッキンガム宮殿に引っ越ししないと言いましたが、さすがにそれは説得されました。

退位の原因となったウォリスとの関係ですが、離婚歴ありのアメリカ人の彼女が家族にも国民にも受け入れてもらえると信じていた、とあきれるほど無邪気です。

退位を決めたときも弟には相談をしないなど、なにごとも自己中心的で他者に対し無神経。

 

 

退位後も スポットライトのあたる華やかな場所が好きなウィンザー公には、分をわきまえておとなしく引退するという考えはありませんでした。

普通の頭をしていれば出しゃばって現国王のメンツをつぶす行為は避けるはずですが、自分本位なエドワードはこれっぽっちも思いません。

国に奉仕したいと言い出して、あちこちへ勝手に首を突っ込みます。

訪問すると言われた部隊や大使館は、前国王への儀礼はどうすればよいか分からず右往左往。

ずっと兄の陰にいて彼の人々を魅了する力をよく知っていた弟は、君主の権威が軽んじられることをおそれ、ウィンザー公が軍に係ることを禁止します。

公的な場からはずされて、ないがしろにされたと思ったのか弟への対抗心からなのか、ウィンザー公は本国の方針を無視しナチスと調停役を買って出ようとします。

ユダヤ人への迫害は始まっていましたが、ヒトラーゲッペルスに歓待されご満悦となります。

イギリスを占領後エドワード8世を返り咲きさせる計画がドイツにあると政府と王室は知り、このまま欧州に置いていくのは危ないと、ついにはウィンザー公夫妻はバハマの閑職へ追いやられます。

 

 

義務を負うためではなく人々の注目を浴びるために表舞台に立ちたがるウィンザー公の懲りない性分は、『歴史の証人ホテルリッツ』にも書かれています。

戦後、ジョージ6世の健康状態が悪化すると、まだ若いエリザベス王女では心もとないと思う一部の声がありウィンザー公も野心を抱きます。

彼らのアドバイスに従い、母メアリー皇太后を見舞って祖国での印象を良くしようとしますが、留守の間にウォリスは愛人をホテルに連れ込むというスキャンダルを起こして計画はあっけなくパァ。 

歴史の証人 ホテル・リッツ (生と死、そして裏切り)

歴史の証人 ホテル・リッツ (生と死、そして裏切り)

  • 作者: ティラー・J・マッツェオ,羽田詩津子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/06/30
  • メディア: 単行本
 

 

こんな兄ですが、こじれる前の兄弟仲はとても良く、退位後も互いに連絡を取っていました。

それが泥沼化していく理由のひとつとして金銭問題があります。

退位後は王室費から高額の年金をもらう事になりましたが、実はサンドリンガムハウスをはじめとした財産も父から相続しエドワード名義のままになっていました。

そのことをエドワードは弟に言っておらず、バーティからすると裏切り行為でした。

金銭問題がらみでは、ウィンザー公がやたら公職にこだわったのは、公的な肩書があれば非課税で済むというケチくさい、しかしパリのホテルリッツに滞在し続けるような外国で贅沢三昧をしている夫妻にとっては切実な理由でもありました。

そして最大のこじれた原因はウォリスの肩書問題。

ウォリスを王室の一員として認めHer Royal Highnessの敬称をつけるようエドワードは弟に再三要請しますが、 メアリー皇太后とエリザベス王妃が強固に反対します。

ウィンザー公夫妻がナチスの肩を持ったのは、ドイツで大歓迎されただけでなくウォリスをロイヤル扱いをしてくれ気を良くしたから、というのもあります。

こうして仲の良かった兄弟は、兄は弟を軽蔑し弟は兄を疎むようになります。

 

 

肉親同士でこじれると他人よりも一層やっかいとはいうものの、弟の葬儀のときにウィンザー公は悲しむこともなく年金の心配だけをしていたのはひどい。

伝記の中でブラッドフォードは、バーティのかたくなな態度に一因はあると書いていてウィンザー公にすこーしだけ同情的ですが。

もしも和解するとしたらリリベットの結婚式が唯一の機会だったのかもしれません。