ジョージ6世戴冠式

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82年前の1937年5月12日、ジョージ6世戴冠式ウェストミンスター寺院で行われました。
この日は、もともとは兄エドワード8世の戴冠式として準備が進められていたのですが、前年12月の退位により突然の主役交代となります。
そのためジョージ6世は前の国王が生きているというだけでなく、即位後半年という超スピードの異例の戴冠となったわけです。
通常は前の国王が崩御してから16か月後に戴冠式を行うらしいですが、バーティが子供の頃に参列した祖父エドワード7世戴冠式は主役が虫垂炎のため2か月延期され、父のジョージ5世の場合は12か月後に戴冠式を挙げています。

 

 

兄が退位すると決まったとき国事に関する書類を見たこともないのにと嘆いた弟は、王になる教育も心構えもないまま即位し、国王の仕事に忙殺される中、戴冠式の日を迎えます。
慣れない仕事と重圧でストレスマックスな上、人気者だった前任者の兄を惜しむ声は大衆の間では大きく、追い打ちをかけるように新国王は身体的、精神的に弱くて戴冠式に耐えられず国王としての義務を果たせないというゴシップ記事が、かつてエドワードの取り巻きだった周辺から流されたりもします。

夭逝したジョン王子の病気を例に挙げた中傷もささやかれます。
当時、エドワードの次の王としてヨーク公ではなくケント公を推す声があった(wiki)という説は、ゴシップの過去のあるケント公が候補に挙がることはないとブラッドフォードは伝記の中で否定していますが。

戴冠式には前国王の未亡人は出ないという慣習を破り母のメアリー皇太后が列席したのは、こういった不安視する声に対し新国王を支持するという姿勢を見せるためでした。

彼女が胸に長男ウィンザー公のガーター勲章をわざわざつけたのは、前国王の賛同を得ているということも示すためだと思います。

 


先日タイミングよく、エリザベス女王が自身の戴冠式を振り返るBBCのドキュメンタリーの再放送がNHKBSであり興味深く見ました。

戴冠式で使われる二つの王冠、聖エドワード王冠と大英帝国王冠を紹介していましたが、大粒の宝石がこれでもかと飾られていてすごいものですね。

写真のジョージ6世がかぶっているのが聖エドワード王冠で、戴冠式のときのみに使用される王冠です。

『ザ・クラウン』シーズン1の5話で、リリベットがお父様の練習に付き合うほのぼの親子シーンで登場したのもこの王冠です。

同じくドラマに出てきた聖油を手のひら、胸、額に注ぐ聖別は印象的なシーンでした。



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(写真引用元:デイリーメール)

 

 

ドキュメンタリーではジョージ6世戴冠式はスムーズに進行しなかったというエピソードも紹介していましたが、『英国王のスピーチ』にもあったように大主教が聖エドワード王冠の正面が分からなくてクルクル回したことだけでなく、国王が戴冠式の椅子から立ち上がろうとしたら主教のひとりがローブを踏みつけていて危うく転びそうになったりとか、王冠を載せていたクッションに勲章の鎖が絡んだりとか、上着を着せるアンカスター伯の手が震えていたので剣帯を王自身で締めなくてはいけなかったりとか、トラブル続きでグダグダだった模様です。

 

 


Coronation Of King George VI & Queen Elizabeth: Reels 3 & 4 (1937) | British Pathé

 

 

こうした数々の予期せぬトラブルはありましたが、ウェストミンスター寺院での長々とかかった戴冠式を無事終えることが出来ました。

歴史や宗教上の儀式に強い関心を持っていたバーティは当然ながら、この数百年前から続く厳かで神秘的な儀式に感銘を受けます。
戴冠式があったその夜、最後の難関のラジオ放送を終えたジョージ6世はバルコニーに王妃と共に立ち、宮殿の正面に集まり口々にWe want GeorgeやWe want the Kingと呼びかける群衆に向かって手を振ったのでした。

それまでは周辺からは大歓迎というわけではなく不安視する声が大きく、本人も不承不承でしたが、戴冠式をやり遂げたことと国民から温かい歓迎を受けたことで、王としての自信と威厳を持つようになります。

こうした国王の変化は周囲の目から見ても明らかでした。

 

 

ジョージ6世戴冠式には、エドワード8世の戴冠式用にウィリアム・ウォルトンが作曲した『戴冠行進曲Crown Imperial』が使われました。

1953年のエリザベス女王戴冠式には同じウォルトン作曲の『Orb and Sceptre』と共に使われ、2011年のウィリアム王子の結婚式の際にも演奏されています。
かっこいい曲ですがエルガーの『威風堂々』にちょっと似てるかも。

 


William Walton : Crown Imperial

 

ウォルトンローレンス・オリヴィエ主演のシェークスピア映画の音楽を担当している以外にも、バトル・オブ・ブリテンを題材にした『空軍大戦略』の映画音楽も作曲している国民的作曲家です。
ただし『空軍大戦略』ではほとんど採用されず別の作曲家のものに差し替えられました。

 

 

5月20日にはジョージ6世戴冠記念観艦式が行われ、wikiによると英国及び英連邦から145隻と招待の18か国からの艦艇が参加しています。


Royal Naval Review Aka His Majesty Reviews His Fleet (1937)

 

1931年には満州事変があるなど日本と英国の関係は良好どころか冷え冷えだったのですが、日本も招待され巡洋艦『足柄』が参加しています。

軍艦に詳しいミリオタの方は上の映像に映っている艦艇名をぜひ当ててみてください。