The King's Speech

 

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ジョージ6世を説明するとき必ず挙げられるのが映画『英国王のスピーチ』。

ご本人にあまりに似てないのでミスキャストと言いたいのですが、コリン・ファースの演技が上手すぎるので何も言えない…。

クライマックスのスピーチは本物とそっくりなので、何度も何度も聞いて撮影に挑んだのだろうなと想像されます。

実物の映像で見られるスピーチの途中「……」となって言葉が出てこない苦しさも、コリン・ファースはよく表現していると思います。

同じ音を繰り返すのが吃音だと思っていたので、こういう最初の言葉が出ない難発性という症状もあるとは映画を見るまで知らなくて、広く世間に認識してもらうという点から映画やドラマといった媒体は有意義ですね。

そうは言っても側で心配そうに見守る妻のエリザベスにとっては夫が苦しむのを見るのはつらいことだったので、自分が生きている間は映画化の許可をしなかったというのも理解できます。

 

 

作品はアカデミー賞4冠、ゴールデングローブ賞1冠に輝いていますが、ワインスタインが関わっていることは作品の内容には関係ないとはいえアカデミー賞を受賞した数には影響力を感じなくも…。

賞以外で特筆すべきなのは北米で1億4千万$、海外で2億7千万$の合計4億1千万$(日本で2千万$)の興行収入の一方、公表されている制作費が1千5百万$なので非常にコストパフォーマンスが良いということ。

地味な歴史ドラマなのに、全世界で440億円くらい稼いだのは、敗北→特訓→勝利、というボクシング映画のフォーマットに則り非常に分かりやすく盛り上がるのが上手く、広く多くの人に支持されたからだと思います。

参考までに『ウィンストン・チャーチル』は制作費が3千万$で全世界の興行収入が1億5千万$。

『英国王の~』のコメンタリーでは予算がないという話を監督はけっこうしていましたが、そのケチケチ具合は『ウィンストン~』との衣装の差からも分かります。

 

 

歴史的事実と順序はけっこう入れ替えてますが、歴史ドキュメンタリーではなく歴史ドラマなので改変について難癖つけるのは野暮。

とはいえ実際にローグの診療所を初めて訪れたのは結婚して間もなくの1926年で、即位する20年前とかなり時系列をいじっています。

当然娘たちはまだ生まれていない時ですね。

 『バーティ&エリザベス』にもローグの診療所でレッスンをしているシーンがあるんですが、その時のエリザベスはマタニティ姿なので史実に沿っています。

最初の大失敗に終わったスピーチが1925年なのは変えられないですが、特訓と治療の効果があって1927年のオーストラリア訪問は成功でした、にするとものすごく地味な映画になってしまうので、ドラマティックな1936年の王室の危機とそれに続く即位をどうしても入れないと。

戴冠式は即位から半年後の5月ですが、映画の中では初夏にしては厚着なので即位からあまり時間が経たずに戴冠式というふうに変えているのが分かります。

 

 

ほかのキャストについて触れると、妻のエリザベスはもうちょっと太り気味でもよさそうですが、小柄で愛想がよくて夫を愛し支える妻というのはよく表れてます。

チャーチルはもっと愛嬌がある人物だったと思うのですが、この映画のチャーチルは人相も愛嬌も良くなく役割もフィクションが入っていまいち。

彼はエドワードとシンプソン夫人との結婚については最後まで賛成して総スカンを食らい、そういった事情があってジョージ6世夫妻からは嫌われていたので『ウィンストン・チャーチル』の関係性のほうが史実に合ってます。

兄に代わって王位に就くことを勧めるところも首相のボールドウィンの役だろうと思いますが、そこは説明を省くためチャーチルにしたのでしょう。

ただ、わざわざチャーチルにしなくても話の流れから首相でよかったのに、注釈を入れないと分かってもらえないボールドウィンがカワイソウ。

 

 

小ネタとして脚本に織り込んであったエピソードをいくつか挙げると…

 

・バーティが好きな歌の例として挙げた「草競馬」や「スワニーリバー」は、母メアリーが子供たちが小さいときに一緒に歌った歌。

  

・脱童貞の会話↓の、召使のポーレットから、という訳は間違っていると思います。

  We shared the expert ministrations of  "Paulette"  in Paris.    

  コメンタリーで言っている元文献を見たわけではないのですが、『The King Maker』の中ではRAFに所属していた1918年にフランスにいたときかもと書いてあります。

 

・The Fat Scottish Cook(デブのスコットランドの料理人)と呼ばれているとエリザベスが言っていましたが、ウォリスとその取り巻きは都会的でハイセンスな人たちだったのでヨーク公夫妻を馬鹿にし太った妻のことも笑っていて、ウィンザー公も義妹のことを”クッキー”とあだ名を付けていました。

 

ヨーク公夫妻をウォリスが出迎える場面がありますが、エチケットでは王族を招いた場合に出迎えるのは招待主のホストまたはホステスなので、あの場合は王であるエドワードになります。

ウォリス問題で不満と緊張が高まっていた1936年の9月に城(バルモラル城?)で行われたディナーパーティをモデルにしたシーンですが、実際にウォリスは慣例を無視しヨーク公夫妻を出迎え、それに対しエリザベスは彼女を無視して義兄にあいさつをしテーブル席では序列に従いウォリスを端にするという意趣返しで対抗。

 

以上とりあえず気づいたことですが、またあれば追加します。 

 

 

ソフトを買う参考にレビューを見たら、スピーチが主題の映画なのに英語字幕がついていないとあり、えぇ…となりました。

しかも無駄なデカ文字字幕が選べるというありがたい仕様で。

このデカ文字が選べて英語字幕がないというトンデモ仕様は『キング・オブ・エジプト』を買ったときに初めて知りましたが、あのときのガッカリ感といったら(エジプトさんは黄金聖闘士あり天動説ありで楽しい映画なのに、大コケしたせいでネタ扱いされているのが悲しい…ジェフリー・ラッシュも出てますよ)。

洋画には英語字幕がついているのが当たり前という思い込みが覆された衝撃。

 

弱小配給会社にしては『英国王~』は興行収入が良かったことに気をよくしてか『英国王のスピーチの真実』というドキュメンタリーも発売していて、売れ残ったらしき未開封の中古をブックオフで購入。

見たことのない映像があったので満足でしたが、これはスペシャルエディション版に映像特典としてつけるようなおまけDVDでしょ。

 この内容で定価3800円は、ぼったくりですね。

英国王のスピーチの真実 ?ジョージ6世の素顔? [DVD]