プロフィールあれこれ
映画『英国王のスピーチ』と『ウィンストン・チャーチル』ではジョージ6世の人物像が異なる、という感想を見かけたことあります。
では、実際にはどういう人物だったか?…です。
〇外見
映画やドラマでは目の色が茶色の俳優さんばかりですが実際は青い目。
髪の色は白黒写真に色をつけたものを見ても茶色だと思うのですが、なぜか小説マギー・ホープシリーズの『エリザベス王女の家庭教師』では金髪と書いてありました。
身長は175cmほど。
イギリス人男性の平均身長くらいなので低くはないですが、とってもスリムなので小柄に見えます。
親子が並んだ写真を見てわかるように、兄エドワードは弟より背が低く170cmくらいで小さっ。
エドワードとシンプソン夫人が並んだ写真を見ると一緒の背丈なので、映画『ウォリスとエドワード』の身長差には違和感がけっこうあります。
日本人は背が低いから見栄えがよくないと嘆くそこのあなた、ウィンザー公という心強いモデルがいますよ。
(写真引用元:Royalfamilyのtwitterから Royal Collection Trust)
王立空軍RAFの制服を着た親子3人の写真ですが、1935年の日付だと父ジョージ5世が亡くなる半年前になります。
兄エドワードは空軍に所属したことはなく袖の階級章は父の元帥から順番に下がっているので単に撮影用かと思ったら、親子3人でRAFを視察する映像があったのでその際のものでしょう。
兄エドワードは金髪碧眼のハンサムで人気者でしたが、弟バーティも兄に劣るとはいえ、ぱっと見は麗しいと思います。
兄弟の王室らしい(?)エレガントでクラシックな雰囲気は、今は時代の流れで失われつつあり残念。
容姿端麗なのは祖母のアレクサンドラの血筋だと思うのです。
ロマノフ家に嫁いだ妹(のちのニコライ2世の母)とアレクサンドラは美人姉妹で有名でした。
公式写真家のひとりセシル・ビートンは、被写体としてのジョージ6世について「海軍の制服に身を包んでいると彫刻のようで、特にハンサムに見える」と言っています。
実際、上の写真を見ても軍服姿は端正でかっこいい。
妻のエリザベス王妃については…写真では王妃の肌の艶や輝く瞳といった魅力を伝えられないそうです。
〇性格
伝記を読むとshyという単語がよく出てきます。confidenceがないというのも多い。
社交的な兄へのコンプレックスや吃音もあり、自信のなさからくる引っ込み思案な性格でした。
幼少時の環境のため、おどおどとした内気な性格になり、常に兄の陰に隠れ、吃音により愚鈍と思われていた少年が、兄弟の中で最もガッツがあると父親に言われるまで成長したのは、海軍学校時代から結婚するまで側にいたルイス・グレイグがアルバート王子に強い精神を植え付けた(put steel)影響が大きいと思います。
グレイグについては別の機会に取り上げるつもり。
〇長所
プリンス・チャーミングと呼ばれた兄のような人を引き付ける魅力には欠けていましたが、誠実さ、責任感、真面目さ、礼儀正しさ、歴史や伝統への関心、教会への敬意を持っていました。
次男の真面目で責任感の強いところなど息子たちの中で最も父親に似ていたので、長男が次の王になるのは仕方がないとして、その次はバーティとリリベットに王位を引き継がせたいとジョージ5世が思ったのも当然です。
そのためにはエドワードに子供ができないというのが前提になりますが(実際そうでしたが)、父には先のことなど分からないですから王室の将来が心配だったでしょうね。
実際、内気で真面目で責任感が強いという父親の性格を受け継いだのは娘のリリベットことエリザベス女王でした。
ちなみに長男は大衆受けはよかったですが不誠実、無責任、自堕落、伝統や教会の軽視など、よくここまでダメダメな部分を集めたものだと呆れます。
〇短所
公務の緊張からか、かんしゃくを起すことがよくありましたが、妹もそうなので多分に父ジョージ5世からの気質です。
タウンゼント大佐だけは国王が爆発しそうになる前に鎮めることが出来ましたが、一旦、爆発するとなだめられるのは妻のエリザベスか娘のマーガレットだけ。
映画『英国王のスピーチ』にもビー玉治療にキレた夫を落ち着かせる妻エリザベスのシーンがありましたが、あんな感じでしょうかねぇ。
客人や使用人に対して思いやりがある親切な国王でしたが、不運なタイミングでこれに遭遇するとすごく恐ろしかったようです。
アトリー首相のお嬢さんと彼女をエスコートして城内を案内していた若い士官のカップルは、バスルームへ行く途中の国王とばったり会い、いきなり怒鳴られてしまいます。
その剣幕に可哀そうなフェリシティ・アトリー嬢は、父に告げ口されるわ、と泣き出してしまったとか。
〇苦手なもの
ライオネル・ローグの協力によりスピーチはこなせるようになりましたが、マイクの前で話すことの苦手意識は抜けなかったようです。
人々の集まる場で一身に注目を浴びるのが苦痛だったので、結婚してからは妻に、子供ができてからは娘たちに注目が集まり、かなり助かったのでは。
記録映像を見ても、エリザベス王妃は行事関係者に、にこやかに頻繁に話しかけていますが国王は表情も硬く言葉少なめですね。
彼のことをよく知らない人からは愚鈍と誤解されがちだったのも、公的な場で愛想を振りまくのが不得手だったからでしょう。
そういう公の場に出ることが苦手なバーティを励まし勇気づけ支えたのが妻のエリザベス でした。
伝記に書かれたエピソードで可笑しかったのが、北アフリカの第8歩兵軍団を視察した際の出来事。
モントゴメリー将軍やほかの将軍たちの前で閲兵する直前、突然怖気づき、閲兵できないと言い出し、侍従を青ざめさせます。
そのためにここまで来たと侍従が説得しても、なおも国王は家に帰ると繰り返します。
侍従が静かに「分かりました、陛下。それでは泳いでお帰り下さい」と言うと、不気味なほどの静止の後、突然、笑みを浮かべ冗談も言うとテントの外へと出ていき、閲兵式を完璧にしたのでした。
〇いたずら好き
バルモラル城などプライベートな場所では、時として子供っぽい悪ふざけをすることも。
たとえばドアの上に本を乗せるトラップを仕掛けたりシーツを折りたたんで布団に入れなくする悪戯(アップルパイベッドと言うのだそうです)をしたり、それをやり返されたりするのを楽しみにしたりという愉快なことが大好きだったようです。
娘の家庭教師がバーティから手渡されたマッチ箱を開けたら、中に青虫が入っていてびっくり。
そういったエピソードを反映してかドラマ『バーティ&エリザベス』では、おどけてみせるバーティがいて、家庭内でのジョージ6世はあんな風だったのではと思います。
〇おもてなし
王室の重要な役割として各界の要人との面会やもてなしがありますが、客人は親切にもてなし、ホストとして客人に対するマナーは完璧で、共に楽しんでいました。
ただし彼自身としては大勢の人に囲まれるより家族とだけいることを好みましたが、それを表に出すことはしませんでした。
これも面白かったエピソードを紹介。
連合軍の高位のアメリカ人将校がウィンザー城を日曜日に見たいというので、その間は国王一家は城内にいることを城を管理しているウィグラムにバーティは約束します。
ところがその日はいい天気で、約束をすっかり忘れたバーティが一家そろって庭でお茶をしていたところに客人を案内する声が聞こえてきました。
国王一家に気づいたらウィグラムはツアーを中止してしまうと知っていたバーティは、我々は見つかってはならない、と警報を発令し、一家は膝をついた匍匐で庭木に隠れて無事、城内へと避難したのでした。
〇素養
絵画や文学といった芸術にはさっぱり興味がありませんでしたが、これは父親の影響大です。
機械や電気といった実用的なものに興味を示すところも父親譲りで、現代に生まれていたら機械好きのミリオタになっているかも。
逆に母親の芸術好きな面を受け継いだのが四男のジョージでした。
国王は芸術関係のパトロンには向いていませんでしたが、幸いエリザベス王妃は絵画に関心を持っていたのでアドバイザーに従って王室のコレクションを充実させていきました。
人となりはこんなところでしょうか。
〇特技、〇趣味、〇ファッションなどなど…についても書きたいですが、それぞれエピソードがあるので別に取り上げるつもり。
〇おまけ:上で話題に出した本。
ライトノベルぽくて全体的にぬるいです。
才媛なのに活躍の場が与えられなくて不平不満な主人公を応援したくなるかというと…。
マリオン・クロフォードの暴露本はかなり参考にしてるようです。